はやし浩司
学習机と勉強部屋を考える
●机は休むためにある 学習机は、勉強するためにあるのではない。休むためにある。どんな勉強でも、しばらくする と疲れてくる。問題はその疲れたとき。そのとき子どもがその机の前に座ったまま休むことがで きれば、よし。そうでなければ子どもは、学習机から離れる。勉強というのは一度中断すると、 なかなかもとに戻らない。 そこであなたの子どもと学習机の相性テスト。子どもの好きそうな食べ物を、そっと学習机の 上に置いてみてほしい。そのとき子どもがそのまま机の前に座ってそれを食べれば、よし。もし その食べ物を別のところに移して食べるようであれば、相性はかなり悪いとみる。反対に自分 の好きなことを、何でも自分の机にもっていってするようであれば、相性が合っているということ になる。相性の悪い机を使っていると、勉強嫌いの原因ともなりかねない。 ●机は棚のない平机 学習机というと、前に棚のある棚式の机が主流になっている。しかし棚式の机は長く使ってい ると圧迫感が生まれる。もう一五年ほども前のことだが、小学一年生について調査してみた。 結果、棚式の机の場合、購入後三か月で約八〇%の子どもが物置にしていることがわかっ た。最近の机にはいろいろな機能がついている。が、子どもがそれにあきたとき、机はそのま ま物置台になる。机は買うとしても、棚のない平机をすすめる。あるいは低学年児の場合、机 はまだいらない。たいていの子どもは台所のテーブルなどを利用して勉強している。この時期 は勉強をあまり意識するのではなく、「勉強は楽しい」という思いを大切にする。親子のふれあ いを大切にする。子どもに向かっては、「勉強しなさい」ではなく、「一緒にやろうね」と言うなど。 ●学習机を置くポイント そこで調べてみると、いくつかのポイントがあるのがわかる。 @机の前には、できるだけ広い空間を用意する。 A棚や本棚など、圧迫感のあるものは背中側に配置する。 B座った位置からドアが見えるようにする。C光は左側からくるようにする(右利き児の場合)。 Dイスは広く、たいらなもの。かためのイスで、机と同じ高さのひじかけがあるとよい。 E窓の位置が重要なポイント。窓に向けて机を置くというのが一般的だが、あまり見晴らしがよ すぎると、気が散って勉強できないということもある。 机の前に広い空間があると、開放感が生まれる。ドアが背中側にあると、心理的に落ち着か ない。意外と盲点なのが、イス。深々としたイスはかえって疲れる。ひじかけがあると、作業が 格段と楽になる。ひじかけがないと、腕を机の上に置こうとするため、どうしても体が前かがみ になり、姿勢が悪くなる。またイス全体が前にかがむようになっているイスがある。確かにその ときは能率があがるかもしれないが、このタイプのイスでは体を休めることができない。 また学習机をどこに置くかだが、子どもが学校から帰ってきたら、どこでどのように体を休め るかを観察してみるとよい。好きなマンガなどを、どこで読んでいるかをみるのもよい。たいて いは台所のイスとか、居間のソファの上だが、もし「うちの子は勉強しない」というのであれば、 思い切って、そういうところを勉強場所にしてみるとよい。子どもは進んで勉強するようになる ……かもしれない。 ●相性を見極める ものごとには相性というものがある。子どもの学習をみるときは、その相性を大切にする。相 性があえば、子どもは進んで学習する。相性が合わなければ、子どもは何かにつけ、逃げ腰 になる。子どもの学習意欲そのものをつぶしてしまうこともある。子どもの学習を家庭で指導す るときは、この相性を見極めながらする。 (勉強部屋診断) ◎棚が背側にあり、机の右前に窓があるという点で、配置としては問題ない。イスに座った位 置からは、窓の外がよく見え、勉強で疲れたときなど、そのまま気を休めることができる。ドア が背側にあるので、やや不安は残るが、ほぼ理想的な勉強部屋といえる。この部屋の中学生 (中一男児)は、「マンガを読むときも、イスに座って読む」と話してくれた。 ***************************************
幻想
子どもの学習には、いろいろな幻想がある。親にしてみれば、いつもはじめての経験で、何 が幻想で、何が幻想でないかわからない。だからどの親も、繰り返し、同じような失敗をする。 ●むずかしいワークブックをやらせれば、勉強ができるようになると考えるのは、幻想……能 力を超えたワークブックをかかえたため、そこで勉強がストップしてしまうというケースは、たい へん多い。あるいは量が多く、とてもやりおおせないというケースもある。そういうときは、各ペ ージの、一番の問題だけをまず、やる。そして一番最後のページまでいったら、またもどって、 今度は、二番の問題だけを、やる。そして一番最後のページまでいったら、またもどって、三番 の問題だけを、やる。 ●長く時間勉強すれば、勉強ができるようになると考えるのは、幻想……勉強の能率は、かけ る時間の長さでは決まらない。ダラダラとするダラ勉、あるいは時間ツブシ、時間殺しが見られ たら、勉強のやり方そのものを変える。コツは、子どもの能力の範囲で、短時間ですますように する。六〇分くらいなら勉強しそうだったら、思いきって、三〇分にする。 ●有名な進学塾へ入れれば、勉強ができるようになると考えるのは、幻想……こわいのは、 「空回り」。その塾の指導が、子どもの能力の範囲にあればよいが、その範囲の外にあるとき は、効果がないだけではなく、子どもにとっては、大きな負担となる。子どもの能力を見きわ め、その能力の範囲の進学塾に入れる。空回りを感じたら、即、退塾したほうがよい。方法とし ては、子どもが上位をねらえるような進学塾へ入れ、そこで力をつけたら、さらに上位の進学 塾へ入れるという方法が好ましい。 ●小人数のほうが、ていねいな指導がしてもらえると考えるのは、幻想……子どもどうしの、相 乗効果というのがある。あるいは子どもどうしが、競いあったり、励ましあったりして、たがいに 伸ばしあうということは多い。小人数レッスンというのは、一見効果があるようで、ないばあい も、同じように多い。家庭教師にしても、子ども自身に「勉強したい」「勉強しなければ」という自 覚があるときは、効果的だが、そうでなければ、あまり効果はない。 ●子どもに受験の自覚をもたせれば、勉強をするようになると考えるのは、幻想……子どもを おどせば、一時的には効果はあるが、あくまでも一時的。「こんな成績では、A中学には入れな いでしょ!」と。この方法は、子どもによっては、逆効果。子どもが一度、反発したら最後、おど しは一挙に崩壊する。そしてこの種のおどしは、二度目がない。 子どもの学習には、こうした無数の幻想がつきまとう。誤解、先入観、それに独断と偏見。こう いうのものが、無数にからんで、ひとつの幻想をつくる。そしてその幻想が、やがてかたまっ て、一つの方針になる。学歴信仰や、学校神話などが、それを支える。しかし今のあなたが、 「限界」の中で生きているように、子どももまた、その「限界」の中で生きている。その限界を知 り、その限界を認め、その限界の中で、子育てをすることも大切。要するに「あきらめるべきこ とは、あきらめる」ということ。 そういう意味では、子どもというのは、不思議なものだ。親が「うちの子は、やればできるはず」 と、子どもを追いたてれば追いたてるほど、あるいは、「そんなはずはない」と、親ががんばれ ばがんばるほど、子どもは伸び悩む。しかし反対に、「うちの子はこんなもの。親が親だから」 と、あきらめたとん、伸び始める。子どもの心に風穴があき、風とおしがよくなるためと考えてよ い。そのためにも、子育てには「幻想」はもたない。その一つとして、子どもの学習にまつわる 幻想を考えてみた。 (02−12−6)※ |